私は言語聴覚士として臨床に携わって33年になります。長いですね、と言われることもあります。ただ、正直に言えば、「まだ分からないことがたくさんある」と感じることの方が多いです。
たとえば失語症。教科書にはタイプが分類され、症状の特徴も整理されています。しかしながら、目の前の患者さんは、常にその分類どおりに存在するわけではありません。同じ検査結果でも会話の中で見せる表情が違い、言葉につまる理由も違います。沈黙の意味も違います。
私は長年、「なぜこの人はここで言葉が止まるのか」「なぜ、この言い誤り(錯語)になるのか」をいつも考え続けています。もちろん、ある程度説明可能な現象もあるのですが、全ての現象を完全に説明できると思ったことは一度もありません。
外から見ると、失語症は「話せない障害」に見えます。ただ、実際には、頭の中には言いたいことがあり、感情もあり、記憶もあり、思考もあります。その“もどかしさ”を私はどこまで理解できているのだろうか。これも、33年経っても確信をもって答えられない問いです。
さらに、検査や訓練場面のような通常場面での反応と、情動が大きく揺すぶられるような場面での患者さんのパフォーマンス(理解、表出ともに)は、往々にして異なることがあります。そこに何が作用しているのでしょうか。この現象も、大変不思議なことのひとつです。
33年も続けてきてまだ分からないことがある。それは、未熟ということではなく、人間を相手にする仕事の本質なのだと思います。
これから言語聴覚士を目指す皆さん。もし皆さんが、「必ず正解のある仕事」を求めているなら、言語聴覚士は少し違うかもしれません。
でも、「人を理解しようとし続ける仕事」をしたいなら、これほど奥深い職業はありません。
33年やっても、まだ分からない。だからこそ面白い。そんな仕事です。
「分からない」ことに正面から向き合うことのできる皆さんの入学を、東京工科大学ST専攻は心よりお待ちしております。