脳の不思議
| 固定リンク 投稿者: うらの
ことばの障害には様々なものがありますが、本学では2年生から本格的に失語症を学修します。
失語症というのは、私たちの脳にある言語をつかさどる中枢(言語野といいます)が、病気や外傷(事故や転落など)によって損傷されてしまうことによって、「話す」「人の話を聞いて理解する」「字を読む」「字を書く」のいずれもが障害される言語障害です。
学修を始めたばかりの2年生にとっては、「なぜそういう発話になるのか?」「どうしてそういう言い誤りになるのか?」というのがとても不思議で、毎回新鮮な驚きとなっているようです。失語症学というのはまさに、脳の神秘に迫る学問領域といえるでしょう。
さて、今日は私自身の脳の不思議について少し書いてみることにします。
私は今でも絵が大変下手くそですが(学校の美術の成績はずっと「2」でした…)、幼少期に描いた絵は全て上下がさかさまでした。
冗談ではなく、本当にこんな感じ…
自分の描いている絵がさかさまであること、周りの友達の描く絵と自分の絵が違うことは子どもながらによくわかっていましたし、何とか努力して正しい向きで描こうともしました。しかし、どんなに頑張って手を動かしても、私の描く絵は全てさかさまになってしまったのでした。正中に描かれた絵とさかさまに書かれた絵の違いは理解していたのですから、少なくとも目で見るレベルで生じた誤りでないことは確かなようです。手の動かし方が違うのか、何がいけないのかと子どもながらにあれこれ考えました。
ところが保育園年長組のある日、突然正しい向きで描けるようになりました。正しく描けるようになったその瞬間、母親が隣でホッとした表情で喜んでいたのを今でも鮮明に覚えています。
お子さんが字を学び始めた初めの頃、鏡文字(鏡で映したかのように左右逆に書いてしまうこと)になることはそれほど珍しくないと思いますが、絵がさかさまというのはあまり聞かない話です。一体、私が絵をさかさまに描いていたのはどういう機序だったのでしょうか。脳の中でどういうことが起こっていたのでしょうか。残念ながら、よくわからないまま大人になってしまいました。
さて、話を大学の学びに戻しましょう。失語・高次脳機能障害領域は、ある程度解明されているところがたくさんある一方、いまだにわからないところもたくさんありますし、答えがひとつとは限らない(もしかしたら答えがないかもしれない)ところもたくさんあります。
わからないことは決して恥ずかしいことではありません。皆さんと一緒に、わからないことを考えていくことをとても楽しみにしています。