コミュニケーションを考えるきっかけ
| 固定リンク 投稿者: うちやま
言語聴覚士1年目4月に、先輩と一緒に担当したある患者さん。
★ちょっと補足★ 施設ごとに異なるのですが、一般的には、新人STには先輩STが指導・助言役としてついてくれます。新人のうちは、先輩に相談しながら患者さんを担当するんですよ。
さて、その方は50歳代の男性で、サッカーの試合中に倒れて心肺停止となり緊急搬送された方です。私が担当についたときは、いわゆる寝たきりの状態で入院されていました。
時々目が開いていたり、唸り声のような声が聞こえたり、全く反応がないわけではありません。ただ、自分から身体を動かしたり、言葉を話したり、頷いたり、ということは難しい状態でした。
奥様が毎日来院され、献身的に付き添い、声をかけられていました。
口からの食事は難しいため、鼻からのチューブで栄養を摂っていました。人の口の中は唾液でうるおいが保たれていますが、実は食べていない期間が長く続くと、口の中は乾燥して汚れやすくなります。口の中の汚れによって細菌だらけになった唾液を誤嚥(ごえん=誤って気管に入ってしまうこと)してしまうと、肺炎になってしまう危険があります。
この患者さんに私は、言語聴覚士として口腔ケアをしたり顔面周囲のマッサージをしたり、声掛けをして反応を引き出したり、といった関わりを行っていました。もちろん、病棟の看護師や奥様と協力しながら・・・
ある時、奥様がご自宅からCDラジカセを持参されました。患者さんは長渕剛さんのファンで、自宅や車の中でよく聞いていたそうです。曲を流してみても、患者さんの反応はみられず、変わりませんでした。
そこで、私が唯一知っていた「乾杯」を奥様と一緒に歌ってみました。
そのとき!!なんと患者さんは目を開けたのです。そして、目から涙が流れました。その姿に「ちゃんと声は届いているんだなぁ」と感動したことを強く覚えています。奥様も一緒に涙されていました。
言葉を交わすことだけがコミュニケーションではありませんね。
思うように伝えることができない患者さんの声を聞くこと……言葉だけでなくその方の思いを周りの方につなぐこと……これも欠かせないコミュニケーションだということを、新人STの私に教えていただいた患者さんでした。言語聴覚士として常に大事にしていきたいなと思います