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リハビリは趣味です

| 投稿者: わたなべ

工作をする親子のイラスト(母親)

言語聴覚士養成校の学生時代に(四半世紀前くらいですが)、都内の某病院に学生2人で自主見学しに行きました。学外実習でも就職活動でもありません。本当に自主的な見学でした。病院での言語聴覚療法を実際に肌で感じたかったのでした。その病院は失語症の言語療法に関して、当時テレビでよく紹介されるような有名な病院でしたので、もう一人の学生と一緒にとても緊張して訪問ました。緊張しまくっていたのですが、臨床場面を見せていただき、気づけば、いつの間にか緊張は解けていました。それは、温かく迎えてくださったK先生の臨床(セラピー)が、楽しいものだったからなのでした。

そのK先生のスタッフルームに入ったとき、「リハビリは趣味です」と書かれた紙が壁に貼られていました。早合点な私は「この先生は、仕事が趣味なんだ!いわゆるWorkaholic、つまり仕事中毒なのかな?」と勘違いしたのでした。 でも、K先生に念のためにお尋ねしたら、想像していたことの遥か斜め上のお考えが示されたものだったのです。

つまり、リハビリテーションは趣味のような楽しいサービスを提供するべきであって、楽しくなければリハビリではない、ということなのでした。このことばを、私は病院に勤務してからずっと心に留めて何度も反芻(はんすう)してきました。四半世紀経った今、本当にそうだなと強く共感しています。

私は、小児の言語発達障害や吃音を主な臨床・研究の対象としておりますので、お子さん相手のリハビリ(厳密にいうと、リハビリテーションではなく「ハビリテーション」なのですが)では、いかに子どもが楽しく参加してくれるかが大切であることを日々痛感しています。「訓練」ということばを専門用語として専門家同士で使うこともありますが、実際の臨床では、難しい課題を我慢してもらうような訓練!ではなく、むしろゲーム感覚に近い楽しい活動を取り入れるようにしています。もちろん、ただ遊べば良いというのとは異なりますけれど。

子どもだけではなく、大人も、楽しくないと、良いパフォーマンスを発揮できませんよね。

大学生のときに文化人類学で学んだ、ホイジンガという歴史学者の「ホモ・ルーデンス」ということばを思い出しました。人間は「ホモ・サピエンス(ラテン語で「賢い人」)とよく言われますが、ホモ・ルーデンスは「遊ぶ人」という意味です。つまり、人間には、遊びが大切で、社会や文化も遊びから生まれ、遊びは人間活動そのものである、ということです。そのときは、将来言語聴覚士としてホモ・ルーデンスについて考えを巡らせるなどとは露にも思わなかったのですが、人生無駄なものはありませんね。そして、遊びも無駄ではなく、人間に、そして人生にとっても、遊びは本当に大切なことですね。車のハンドルも遊びが大事と言います。遊びがないと安定した運転ができません。スポーツも、中世フランス語desport「遊ぶ、楽しむ」が語源として関係しています。

また、日本でも平安末期頃の歌謡集「梁塵秘抄(りょうじんひしょう)」に「遊びをせんとや生まれけむ、戯れせんとや生まれけん」と記されています。

古今東西、人間の生きる原動力は、「遊び」ということで間違いないようですね!

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